「元鬱」のレッテルが、這い上がりを徹底的に阻止する。
鬱を患った人が社会復帰を試みる際に、最大の壁となるものは、
「具合が悪くて働けない」
ことではなく、
「そもそも働ける土俵がないから働けない」
という事実だ。
鬱による休職を会社が認めており、休養の末元の職場に復帰できる場合はまだしも、人間関係や制度の問題上、満身創痍の状態で退職せざるを得ず、職歴にブランク期間ができてしまったら最後。
どんな企業に面接を受けに行っても、ここぞとばかりにブランクを指摘され、
「この期間は何をしていましたか?」
と、聞かれるパターンは避けられない。
素直に「鬱で休んでました」
と、答えれば当然、
「今は大丈夫なんですか?仕事が忙しくなったりストレスを感じたら、また再発しませんか?」
と質問責めにあい、何と答えようと、よほど物好きな会社で無い限りは不採用になる。
ふわっと誤魔化して、
「少し疲れたので、ゆっくりしてました」
などと答えて仮に採用されても、真実をありのままに伝えなかった自身に対しての後ろめたさや、万一再発したときに、誤魔化していたのがバレてしまうのではないかという不安を抱えたまま働くこととなり、結果として、真面目で律儀な自身の心を傷つけてしまう。
つまり、一度鬱で履歴書に空白期間ができてしまった人は、その事実を「素直に伝える」or「適当に誤魔化す」のどちらを選んでも、基本的に地獄なのである。
この状況を打開できる有効な策を見つけることは、私自身の最も望むことであり、もずっと模索し続けているが、未だに発見には至っていない。
可能性があるとすれば「自営業になる」だと思うが、そもそもとてつもないパワーを必要とする起業は、病み上がりで貯金の無い人や手に職のない人に取って、イバラの道であることは自明だ。
(ちなみに私は士業として開業できる国家資格を鬱完解後に取得したが、開業には至っていない。というかそもそも登録もしていないし、今の仕事では一切使っていない...。)
自活でなくても良いのなら、結婚して主婦/主夫になり、配偶者に扶養してもらうという手段もあるが、老若男女共働き化の時代の流れには完全に逆行しており、ハイリスクであることは言うに及ばないだろう。
こうしてブランク有り既往症鬱の人材が、どんどん抜け出せない負のスパイラルに陥り、更なる絶望と経済・社会的困窮を味わい続けることになるのである。
一度の鬱ブランクが、その後の人生を全く異なるものに変えてしまう。
「過去に鬱になった人」というレッテルを背負って生きていくのは、どこもかしこも余裕の無い人だらけの現代の日本では非常に困難だ。
でも、そんなレッテルを張られた人は、今この瞬間も、まさに、増え続けているのである。
そして、多くの人は、完解に近づき、少し落ち着いて物事を考えられるようになったときにやっと、自身に立ちはだかるこの絶望の壁に気づくのである。
この事実を、一人でも多くの人に知ってほしいと思う。
できれば鬱なんて他人事だと思っている人に。
そして、想像してみてほしい。前にも後ろにも進めなくなった自分を。